りんご秘書の産婦人科日記

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コウノドリから学ぶ産科知識③TOLAC(帝王切開後経腟分娩トライ)

本日は

 

コウノドリから学ぶ産科知識③TOLAC(帝王切開後経腟分娩トライ)


をお届けします。

 

産婦人科を扱ったドラマの最高傑作といわれるコウノドリ

まだ観たことがない方はU-NEXT で観られますので、ご覧ください。

 

①②をご覧になりたい方はこちらから

 

帝王切開って1回すると、次も帝王切開なんでしょ?」

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帝王切開ってこわい?


 

 

よくこんな話を耳にします。


私の母も、3人帝王切開でお産していますので、私もそう思っていました。

 

実は、1度帝王切開になっても、一定の条件がそろえば、
経腟分娩にトライすることができます。


それがTOLAC(トーラック/帝王切開後経腟分娩トライ)です。

 

病院によってはV-BAC(ブイバック)と呼ぶ場合もあります。

 

正確には、まだ産まれておらず、経腟分娩にトライしている段階のことをTOLAC、
トライした結果、経腟分娩でのお産を終えたことをV-BACといいます。

 

ドラマの中では、安めぐみさん演じる妊婦さんが、

「1人目は帝王切開だったから辛く当たってしまうのではないか」と悩み、

2人目は経腟分娩を希望する…というところから始まります。

 

はっきり先に申し上げますが、わたしはTOLACを推奨しません。

 

「TOLAC、もうやめようよ…」という言葉もよく耳にします。

そのくらい、危険が伴います。

 

 

では、詳しく見ていきましょう。

 

 

TOLACの条件は細かく決められている


帝王切開既往のある妊婦さん全員が、希望すればTOLACをできるわけではありません。
TOLACにトライできる条件は、
日本産婦人科学会のガイドラインで細かく決められています。

 

①既往帝王切開数が 1 回である


つまり、2人以上帝王切開の既往がある場合は、TOLACを行えません。
これは、のちに記載するTOLACのデメリットと大きく関係があります。

 

②前回帝王切開の子宮切開の方法が子宮下部横切開であり、術後の経過に問題がなかったことが確認できる


「横切開」であり、「術後経過に問題がなかったことを確認できている」ことが前提となります。

あまり知られていませんが、帝王切開には縦切開と横切開、さらにT字切開という種類があります。

また詳しく書きたいと思いますが、横切開のみが適用となります。

 

「術後経過が良好かどうか」は
通常は本人からの聞き取りだけで済ませてしまう場合が多いですが、

他の基礎疾患があったり、妊婦健診の経過が良くない場合は、
以前お産をした病院に問い合わせる場合もあります。

難しいのは外国の方のお産の場合です。どういった経過だったのかが

問い合わせられないという点では、適用自体が難しいように思います。

 

③明らかな児頭骨盤不均衡がない


児頭骨盤不均衡とは赤ちゃんの頭がお母さんの骨盤に比べて大きいために、

分娩が進行しない状態のことをいいます。

頭が大きいと、お産が進まない分娩停止という状態になり、
結局は緊急帝王切開になるためです。


④今回の妊娠が、双胎や骨盤位ではない


「今回の妊娠が」というところがポイントで、

前回の帝王切開時が双子や逆子だった場合は問題ではありません。


その他、外来担当医・分娩担当医の判断で、上記を満たしていても、

TOLAC を行えない場合もありますので、かかりつけの病院でよくご相談ください。

 

メリット


帝王切開より入院期間が短い


これに尽きると思います。上の子がいると、

何日も家を空けるのは嫌だ!という方は多いのです。

それも、わからなくはありませんが…。

他の記事でも書きましたが、現代の帝王切開は経腟分娩よりも100倍安全です。

 

デメリット


子宮破裂のリスクが高い


TOLACの0.5~1%に発生するとされます。
これは、2回目以降の予定帝王切開の2倍、帝王切開既往のない妊婦さんと比べると約10倍のリスクに相当します。1%と考えれば100人に1人です。


一度子宮を切っているため、そこから避けやすくなってしまうためだと言われています。

 

裂けてしまった部分に赤ちゃんの頭が入り込んでしまい、

赤ちゃんが重篤な状態に陥るケースも報告されています。

 

誘発分娩・無痛分娩と併用しづらい


この2つと併用すること自体は、ガイドラインで禁止されているわけではありません。ただ、「行わない」と表明している病院がたくさんあります。

 

誘発分娩と併用しないのは、余計な促進をかけることにより、

子宮破裂のリスクをより上げてしまうと考えられているからです。

 

また、無痛分娩を併用すると、妊婦さん自身が、ご自身の異変に気づけなくなります。

 

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分娩監視装置


子宮破裂の際は強烈な痛みを伴いますので、分娩監視装置での異変とともに、子宮破裂の危険の判断材料となります。


ご自身の身を守るためにも、このあたりはよくかかりつけ医と相談しましょう。


裁判事例を見る


子宮破裂後の分娩で重症新生児仮死に陥った新生児が約7ヶ月半後に死亡


大きな問題は、

①医師から子宮破裂のリスクについての説明がなかったこと
②継続的分娩監視を行っていなかったこと

この場合はさらに、夜勤帯に助産師がいなかったという点にもあります。
「運が悪かった」では済まされません。

 

その他の発生事例はこちらをご覧ください。

 

赤ちゃんを守るためだけに命を懸けて自分から手術台に上る

コウノドリの中での、印象的なセリフです。

自分の病気やケガを治すためではなく、赤ちゃんを守るために…

たしかにそうだな。それってすごい勇気だな。

 

TOLACを希望すること自体を否定しているわけではありません。

ただ、「説明してもらえなかった」「知らなかった」で済まないリスクがあります。

それをよく理解して、後悔しないお産にしましょう。

 

それでは、今日はこの辺で。